「由良助待ち兼ねたぞ」
で、涙が溢れた。
太夫、三味線、人形遣い、音と動きが制御され、ピーンと張り詰めた中でのセリフ。四段目切腹の場面、客席は始終咳一つない静寂に包まれる。
IMG_7038
画面の数字が大きく、老眼に優しい発券機械がある国立劇場に於いて。


「日本にいる間、どうぞたくさん日本の伝統に触れてください。海外できっと役立ちますよ。」との人生の先輩からの助言に従い、楽日の浄瑠璃へ。江戸の頃からも引き継がれた日本人の辛抱強さを知った夜でした。涙が流れたあの刹那、私は同じく涙した江戸時代の江戸の人と心が通じたのだと思う。この不思議な時間旅行こそ、伝統芸能鑑賞の醍醐味。

ハラキリに関しては、西洋人に馬鹿馬鹿しいと言われ、野蛮としか思われない事に、チクショウ(説明しきれない自分の語学力も含め)と、感じた事があります。
しかし、インド人ならどうでしょう?
袖の下を渡さなかったが故のイジメ。
主人の無念と形見を受け誓う復讐。
本懐を遂げる為に捨てなくてはいけないもの。
御法度ではあるがおやりなさいという気持ち。
そこに至るまでの過程。
こうしたウェットな心理を、理解してもらえるのではないかしら?

そう思うのは、今年読んだインド関連本の「ホワイト・タイガー」原作と「インド残酷物語」の影響です。
前書は、主人の身代わりに罪を背負う羽目になりかけ、もう一つは、著者の運転手が無実の罪で服役…と、両書とも、筋が通らない、即ち、不条理だらけの世界で人々が営むインドが描かれていました。
しかし、何故でしょう、白黒はっきりできない不条理な世の中に蠢く、様々な人の情けに、観客は可笑しみを感じたり、涙してしまう。
 あとは、あれだけ長い時間の映画を創り楽しむ人々なので、江戸文化はインド人に受け入れられやすいのではないかしら…と、帰り道に空を見上げて思うのでした。
 しかし、劇場内の静寂キープは……、
難しいだろうナア。

にほんブログ村 海外生活ブログ インド情報へ
にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村