コロナ禍が落ち着き、デリーはほぼ通常通りと言われ、そんな中、はたと気づき、ウッソ〜っと驚いたことがあります。
それは、インドのバス。
 私にとって、インドのバスの記憶は↑のニュース写真でした。満員どころか、零れ落ちるほどの人が乗る動くバスが、スピードを落としたところですかさず乗り、同じく動くバスから降りる逞しい働く人びと。完全無菌パックの国で苦労知らずに育った異邦人は初めこそ、ハラハラしますが、冷たい心は日常化してしまいます。因みに上記ニュースは2013年のものです。

ギタさん
 20数年前、我が家で働いていた住み込みコックさんは、リクシャを使っていましたが、床拭き仕事のスイーパーさんは、この満員バスで通ってくれていました。彼女の名前をギタさんと言いました。ギタさんは、英語は通じないけど、家にたまに登場するネズミやムカデをガシッと捕まえて始末し、私が
「ギタさん、ありがとう~!」
と泣きそうに喜んでチップを渡すと、ニカっと笑っててくれる、頼もしいお手伝いさんでありました。

 その日、いつもは朝早く、良人の出勤前にやってくる彼女が来ません。彼を見送り、日が高くなってから、ネズミや蛇の前では頼もしいギタさんが、おんおん泣きながら家にやってきました。
 私も英語が下手くそだし、彼女は話せない。しかし、やっぱり苦手だけど、ギタさんよりは英語が話せる我が家と上の階の住人のチョキダール(ガードマン)さんたちと、その他大勢が、わいわい通訳してくださり、私はようやく事情を把握しました。なんと、バスから降りる時に誰かが押して、転んで怪我をしたのだそうです。動いている乗り物から降りる時に、更に危ない事が加わっただなんて。

 彼女の傷口を見なくちゃいけないなと、私は判断しました。パンジャビスーツのズボンは、下を捲り上げられないタイプだったので、我が家のベッドルームに彼女を入れて見せてもらい、私は、彼女が下着をつけていない事を知ります。果たして、インド女性はそうしたものなのだろうか?それはそれで、涼しくていいな、とも思いました。彼女の脚には擦り傷があったので、マキロンをふりかけ、消毒し、お金を少しあげてその日は帰ってもらいました。

 当時の4年間駐在中、ギタさんが遅れてきたのはその日だけで、その後も彼女は、無遅刻無欠勤を貫きました。ということは、4年の間、動くバスの乗り降りで怪我をしたのはたったの一回で、彼女はあの動くバスに飛び乗り、飛び降りを当たり前のように毎日していたことになります。

現在
時代は変わって、現在。
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 コロナ禍が落ち着いても、満員バスを見ないので、バスを利用する人びとが、なかなか増えないのだなあと感じ、そのことをドライバーさんに尋ねると、彼は
「マダム、これがノーマルな姿だよ。」
と言います。
驚いたのは私です。運転手さんは、
「ほら、マダム、あそこが停留所、
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このバスはエアコン付き。
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女性は、フリーパス、
ゲジリワルサンは、ウィメンをリスペクトしている、ナ。
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そこには、停留所が二つならんでる、ナ。
あっちの停留所からバスに乗れば、マダムは家まで帰れる、ナ。」
と、ごちゃごちゃ道路をスイスイ運転しながら、「それで男性からの不満はないのか」という浮かんできた疑問がかき消され、私がただ、ただ、
「え、え、え、え〜っ!!」
としか、相槌を打てないことを次々にスラスラ言います。

 そうなんです。あの人が沢山乗ったデリー交通事情の象徴のようなバス。あれはもうデリーには存在しないのです。人びとは、停留所から止まっているバスに乗り、停留所に止まってから降りるのです。それは東京の満員電車がもう存在しないくらいの驚き。そして、私が乗っている車からバスを見上げると、乗客はみな悠々と座っています。
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 インド、変わったね。本当に。このフレーズ、これまで何度呟いたろう。
でも私は、ギタさんの涙をずっと覚えて、心に留めておこうと思います。

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